さて宿組合の行事を榎本恭三に譲った安藤兵治は、組合の外郭団体ともいえる「箱根温泉宿組合共楽会」を設立した。設立趣意書に見られるように、組合員有志による親睦と相互扶助を目的とした無尽の
会であったと思われる。
箱根温泉宿組合員共楽会設立趣意
夫レ人トシテ希望ナケレバ活動進取ノ実ヲ挙ク可カラズ而シテ其希望ナルモノ種々アリト雖モ其営業ノ繁栄ヲ計リ交諠ノ親厚ヲ増サンコトヲ望ム如キハ能ク天職ニ和ヒタルモノニシテ各人此希望ナクンバ以テ人ト為ス可カラズ抑々予等営業上希望トスル所他ナシ凾嶺風光ノ美ヲシテ益々麗ナラシメ霊泉ノ効ヲシテ益々著ナラシメ以テ世人ニ快楽ヲ与ヘ全山ノ繁盛ヲ期スルニアリ而シテ此希望ヲ達セントスルニハ予等同業者会見ノ期ヲ増シ交遊ノ時ヲ重ネ所謂商買忌ミ敵ノ悪念ヲ去リ同業相親ムノ良心ヲシテ益々増進セシムルヲ要ス如斯深交ノ間協同一致シテ営業ニ従事セバ全山ノ繁盛期ニシテ俟ツ可ク予等ノ希望貫徹スト云フベキナリ此希望貫徹ノ機関トシテ茲ニ共楽会ナルモノヲ設立セリ本会ノ主意ハ既ニ前述ノ如ク同業者交遊共楽ノ費ヲ補ハンガ為メ積金講ニ外ナラズ古語ニ曰ク能ク勤ムル者ハ能ク遊ブト各自其得ル所ヲ割イテ本会ニ積立テ其目的ヲ達セシメントス同業諸君幸ニ賛成御加盟アランコトヲ特ニ希望ノ至リニ堪ヘズ
明治三十八年四月 日
発起人 会計主任 安藤兵治
発起人 榎本恭三
同 澤田キク
同 鈴木牧太郎
同 依元清二
明治時代の宿組合の活動を記す資料は残念ながら見出だせない。横浜毎日新聞及び横浜貿易新報に屢々掲載された広告文や宿組合出版の箱根温泉案内にその一端を知るのみである。
【箱根温泉宿組合共楽会】
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