水質汚濁防止法は公害対策基本法に基づく法律で、その主要な内容は基本法の各条項の実施規定からなっている。
昭和四十九年十二月一日、その施行令の一部改正が行われて、規制の対象となる特定事業所に旅館、ホテルが新たに加えられ、一日の排水量が五〇㎥を超える旅館、ホテルに対してはその排出水の生物化学的酸素要求量(BOD)及び化学的酸素要求量(COD)を一六〇PPM、浮遊物質量(SS)を二〇〇PPM以下とするよう許容限度が定められた。
旅館排水は工場排水と異なり有毒物質を含むことはなく、一般家庭排水の延長として解釈していた旅館業界にとって、多額の設備投資を必要とする法改正は大きな問題となった。法改正が発表されると汚水処理施設メーカーからの激しい売込が始まったが、処理方式や機種の選定を旅館独自で行うことは困難であったので、組合は汚水処理特別委員会(委員長松坂進)を設けてその対策に当ることになった。
委員会は早速、実測困難な排水量の算定などの指導を行い、規制該当旅館五一軒の排出水についてBOD及びSSの定量分析を神奈川県温泉研究所に依頼した。その結果、温泉旅館では汚染度の極めて低い浴室排水の稀釈効果によって排出水の汚濁濃度はBOD、SS共に基準値をはるかに下回ることが判明した。しかし収容人員の少ない小型旅館でも豊富な温泉を使用する場合は排水量は一日五〇立方メートルを超えるためちゅう房排水の処理施設を設置するよう行政指導が行われ、一方では多量のちゅう房排水を排出する大型観光食堂などの飲食業は法の適用外となるなど数多くの矛盾があった。榎本理事長(県議)はこれらの実情を県当局に説明し、上乗せ基準の参考とするよう、また設備資金についても県の助成を要請した。
昭和五十年十月一日、神奈川の上乗せ基準が定められ、既設の旅館に対しては五十二年五月三十一日まで法適用の猶予が認められた。
委員会は、ちゅう房排水の処理施設選定の資料とするため、大型旅館(収客人員三五〇名)及び中型旅館(収客人員一〇〇名)に設置する処理施設について、ちゅう房排水量を一日一人当り七〇リットル、ちゅう房排水のBODを三〇〇PPM、処理水のBODを六〇PPM以下とした場合の設計計算書、仕様書、フロシート、設計図面、工事見積書及び維持管理費計算書の提出をメーカー六社に求めた。
当初、組合では河口湖旅館組合が、すでに実施していたように、メーカーを選定し、一括発注して、施設費のコストダウンと維持管理の合理化を目論んだが六社から提出されたデーターについて、検討した結果、メーカーを一社にしぼることは不可能との結論に達した。その理由は、
(1)旅館の規模及び排水量変動率に著しい違いがあること
(2)立地条件及び上部利用の条件がそれぞれ異なること
(3)メーカーはそれぞれの処理方式と特色をもっているので、各旅館の条件に最も適応したものを選
定しなければならないこと
であり、更に箱根町公共下水道の計画区域内であるかないか、またその完成予定年度等も考慮に入れる必要があったからである。その後、法適用旅館へのメーカーの売込は一層激しくなったので、委員会は度々説明会を開き、前述の六社のデーターやその他の参考資料を配付して、選定を誤らぬよう指導に当たった。
昭和五十二年四月一日、箱根町は公害防止補助金交付制度を発足、所要経費(限度額四〇〇万円)の二〇パーセントを補助、県は利子補給制度を設けた。
(井島誠夫 石村菊次 榎本孝一 草柳輝弥 児島豊 高岡新平 松坂進)
【水質汚濁防止法】
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